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今年9月25日、いわき明星大学AV大講義室で行われた第3回食介護学会
ホームページも展開中
http://e-taberu.com
音楽に合わせて食べる前に、舌、あご、口、首の運動をし、おいしく食べるための食前体操ビデオを販売中。
●5,000円(カラー30分)
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おいしく食べるために。
多業種のメンバーと共に
様々な活動を展開中
「食介護」という言葉をご存知だろうか?これは郷ヶ丘で〈市川歯科医院〉の院長を務める市川文裕先生(53才)が名付けた造語だ。介護の基本には食事と入浴(清潔)と排泄の3本の柱がある。中でも食事介護は他の2つに比べると生命の維持、生きる意欲のためにとても重要な意味を持つ。そこで「食べる側の目線に立った介護」を研究する会として立ち上げたのが「いわき食介護研究会」。介護食やグッズのショールームも備える医院でお話を伺った。
訪問歯科診療の中で
口腔ケアの必要性を実感
市川先生は昭和54年に歯科医院を開業以来、訪問歯科診療を続けてきた。その中で噛んだり飲み込んだりが困難なお年寄り、つまり摂食えん下障害の方と多く接し、「歯を治すのはあくまでも手段であり、目標は食べることではないか」という疑問を感じてきた。今までは介護する側の食事介助技術手法が中心であり、口から食べる介護を指導する人がいなかったのだ。
そこで、平成10年から介護保険制度が開始されるにあたり、訪問歯科診療を介護の現場で支援できないかと思い、平成9年に歯科医師3名、衛生士2名と共に、医院の2階で口腔ケアを中心とした研修を始めた。さらに介護の現場での情報の大切さを痛感し、介護福祉士や言語聴覚士、管理栄養士な
どを招いての講習会を行った。その後、講師達の勧めもあって他職種の人の参加が急増し、平成10年10月に「いわき食介護(Medical Dietary Care)研究会」を発足。現在では医師、看護師、理学療法士、作業療法士、レストランシェフ、学校教諭など数多くの職種の参加により、298名の会員で活動を行っている。
50年後、70年後を考え
子どもの頃からの指導を
「おいしく食べる、つまり健康な食生活のためには『食べる環境』『口腔の健康』『食べる機能の正常』のうちひとつ欠けても、おいしく食べることができません」と市川先生。その条件を維持するために同会では栄養士中心の介護食チームをはじめとして、口腔ケアチーム、摂食えん下チーム、食環境チームを構成し、月1回(第4水曜日)の定例研修会を開催している。延べ72回開催しており、現在は〈いわき市生涯学習プラザ〉で行っている。その他、市民フォーラムの開催、ホームページの活用、介護食コンテスト、食介護学会、ネットワーク親睦会など、実に様々な活動を行い、特に同会で製作販売しているビデオ「音楽にあわせた、おいしく食べるための食前体操」は市川先生が考案、監修したもの。ホームページや講演会を通じて、全国の介護施設、病院、リハビリ施設で使用され、摂食えん下機能の活性に効果をあげている。
さらに研究会では「おいしく食べること」を追求することで、人間の脳を活性化させる要因となる「五感の研修」にも力を入れ、音楽療法や食事時の照明、アロマセラピー、レストランのコックによる料理の盛り付けなどユニークな研修も取り入れている。今後は、介護に携わっている方を対象とした介護食料理教室を開催する予定だ。
最近では、子どもの食生活の改善、乳幼児の味覚教育こそ介護予防の原点と考え、会員であるレストランのシェフと共にユニークな活動を行っている。平成14年には平南白土〈コルドン・ブルー〉の栗崎シェフが大野中学校で生徒と一緒に調理実習を行った。地域で採れたキノコやイチゴ、野菜を使ってフランス料理を作り、安全で健康な食材の摂り方である「地産地消」を学んだ。また、今年は泉町〈レストラン・クドー〉の工藤シェフと郷ヶ丘小学校で食育の一貫として味覚や噛むことの大切さを教えた。
「ずいぶん先の長いことかもしれませんが、このことが50年後、70年後に寝たきりにならないための介護予防教育と考えています」
研究会で学んだ介護食が母への最後のプレゼントに
発足から7年が経過し「ユニークな発想の研究会」ということで講演会、研修会の依頼も多く、県内はもとより、秋田、愛知、鹿児島、沖縄などと全国を飛びまわっている市川先生。かつて大学病院に勤務していた頃、厚生省無歯科医村診療事業で歯科医師のいない離島(南大東島、浜比嘉島)で診療に従事していた時期があり、島の人々の温かさにひかれ、沖縄で開業しようかと本気で思っていたとか。25年ぶりに行った沖縄での講演会では島人(しまんちゅ)との懐かしい再会もあり、また貢献できた幸せを感じることができた。
また、食介護の知識が食道ガンの母の介護に役立ち、特に会で研修した介護食の作り方や食べさせ方が、ターミナルの母に最後のプレゼントになった。そして、ご自身も昨年入院をされたことで、現在行っている成人の生活習慣病の予防や子どもの食育にさらに目を向けるきっかけとなった。
「入院して得た人々の優しさは人生の新しい転機を与えてくれた」と話す市川先生。現在は食介護の分野で今まで以上に活動の輪を広げている。(曽我) |
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