4月29日、いわきでは初めての「コーヒーセレモニー」が開催された。季節ごとにコーヒーを楽しむというこのセレモニー。主催したのは、いわきではただ一人、「明道賛家(めいどうさんか)コーヒー道師範」の神場明久さん。華麗なお点前が披露され、参加者たちを魅了した。「コーヒー道」という言葉を初めて聞いた私は、鹿島町にある教場を訪ね、お話を伺った。
日本古来の茶道と
コーヒーが融合
「茶道」と同じように、コーヒーにも「コーヒー道」という作法があるのをご存知だろうか。日本古来の伝統的な「わび」「さび」「礼」を取り入れながらも、自由に楽しく、おいしいコーヒーを点てるというもの。そのお披露目の場が「コーヒーセレモニー」だ。点て方はもちろんのこと、季節ごとに添え菓子や茶器の選択を工夫し、お客様のために最高のおもてなしをする。招かれた方は、きっと心に残ることだろう。
コーヒー道「明道賛家」の家元は、茶道の表千家出身という堀部思帆(ほりべしほ)さん。今日では日本の立派な嗜好品になっている南国生まれのコーヒーに、大胆にも日本の作法を取り入れ、一つの流派を確立した。「明道賛家」とは、「光のように、誰にでも分け隔てなく」という意味を込めて、命名してもらったそうだ。
神場さんは、数あるお点前の中から「ワゴン点前」というものを披露してくれた。コーヒー豆はブルーマウンテンが主のブレンド「SHIHOコーヒー」で、家元の名前にちなんだもの。まず、デミタスカップに湯を注ぎ、あたためておく。その間にスプーンやソーサーを流れるような手付きで拭いていく。カップがあたたまったところで湯を捨て、ていねいに点てたコーヒーを静かに注いでいく。1杯目は少し濃いめのヨーロピアンで、ナッツやチーズなど濃い味のお菓子とともにいただく。2杯目は2倍に薄めてアメリカンで。砂糖やミルクは入れず、チョコレートなど甘いお菓子とともにいただく。3杯目は10倍に薄めて紅茶風で、ケーキとともに。デミタスカップなので3杯飲んでもちょうど普通のカップ1杯分。1杯分のコーヒーで3種類の味わい方が楽しめるというわけだ。
「礼節」を重んじる茶道に対して、コーヒー道は「おもてなしの心」を重視していると感じた。
コーヒー道との出会い 厳しかったおけいこ
神場さんは昔から茶道や華道、水墨画など、いろいろな習い事をしていた。そんな中でコーヒー道に出会ったのは、今からおよそ20年前のことだった。堅苦しくなく、自由に楽しめるコーヒー道。もともと自由で楽しいことが好きだったという彼女は、自分も華やかなドレスを着てお点前をやってみたいと思い、一大決心。郡山の先生のもとへ自ら運転して通い、必死に勉強した。片道およそ2時間の道のりだったが、毎月1回しかない貴重なおけいこが何よりも楽しみで、一度も欠席することなく通い続けた。
おけいこ中は写真撮影やメモなど、記録することは一切禁止。お点前は体で覚えるしかなかった。しかし、月に1回のおけいこではなかなか身につけることができない。そこで、いわきに帰ってくる途中、車を停めておけいこの様子を思い出しながら、ひたすらノートにメモをして、家に帰ってから繰り返し練習した。その甲斐あって、1990年、念願の師範の免許を取得。現在では毎月1回おけいこを行っている。それまでに書きためた「お点前ノート」は数十冊にもなり、貴重な財産となっている。
向上心を忘れない
奥深いコーヒー道
4月29日、教場で行われたコーヒーセレモニーには、郡山にいる仲間や生徒たちを含め、40名が参加した。郡山では何度も開いたことはあったが、いわきではこれが初めて。参加者たちは目の前で披露される美しいお点前や、彼女が今まで集めてきたさまざまなデザインの茶器に見入り、コーヒーを心ゆくまで楽しんだという。
現在でも、毎月1回郡山で行われている勉強会には必ず参加している彼女。「おけいこには限りがありません。さまざまな工夫によってどんどん進化して、また新しいものが生まれていくのです。奥が深いものなんですよ」師範の免許を取った今でも学ぶ姿勢を怠らない。
神場さんにとってコーヒー道とは何か聞いてみた。「私の人生最後の生きがいですね。どんなに具合が悪くても元気になっちゃうもの」
何事もその道を極めるのは簡単なことではない。並々ならぬ努力が必要だ。しかしそれを乗り越えてこそ、道が開け、すばらしいものを手にすることができるのではないだろうか。
1杯のコーヒー。彼女にとってそれは、自分への最高のご褒美なのかもしれない。(菊田) |