朝日新聞のコミュニケーション誌「朝日サリー」  

HOME私を語るTOP>vol.260

vol.260 
若葉台保育園 園長
桑原 秀夫さん
PROFILE
昭和9年、安達郡出身。福島大学学芸部卒業後、磐崎小学校に初任。湯本第二中学校までの8年間は通常学級で教壇に立つ。その後、市内4ヵ所の中学校で特殊教育指導に従事する。その後は教頭、校長職を務め、平成7年に若葉台保育園を創設。いわき市幼稚園教育研究会副会長、いわき地区養護教育研究会会長、いわき市適正就学委員会委員長、一人一人を生かす研究会会長(設立)

どんな子どもにも輝く未来を…
情熱はあらゆる不可能を可能に変える
特別支援教育への
LAST WORDS
 ここに一冊の本がある。「教育の中心は、特殊教育の中にこそある」という力強い言葉が書かれた帯が目に飛び込む。タイトルは『教育の原点=教師の情熱』。「特殊教育」という言葉は平成19年より改められ、現在は「特別支援教育」と呼ばれる。
 特別支援教育を受ける生徒たちはみな、知的障がい・自閉症・アスペルガー症候群・ADHD(注意欠損多動障がい)・LD(学習障がい)など、なんらかの発達障がいを持っている。この本は著者である桑原秀夫さんが、まだ整備されていない特殊教育を改革し、確立するに至る21年間の物語が綴られている。昨年末には、「いわき民報ふるさと出版文化賞 最優秀賞」にも選ばれた。
↑去年、文芸社から刊行され、いわき民報ふるさと出版文化賞 最優秀賞を受賞した桑原さんの作品。「思いがけない受賞でした。特別支援教育への理解・協力が少しでも進めてもらえれば嬉しいです」とコメントしている。
無我夢中で取り組んだ
21年間の特殊教育改革
 昭和30年、教師としての第一歩を磐崎小学校でスタートした。「どうせベテランの先生の真似はできないのだから、自分でこれだという方法を見つけよう!」と、試行錯誤の毎日が続いた。その後湯本第二小学校に赴任した時に特殊学級の担任をしていた先生に出会い、障がいを持つ生徒とのユーモアに溢れる授業に深い感銘を受けた。そして、校長の強い勧めもあり、29歳の彼は中学校の特殊学級に赴任することになった。
 当時の特殊教育はある意味、野放状態だった。今では特別支援学級をバックアップするコーディネーターが存在するが、当事の特殊教育には専任の指導主事もいない状態であり、ましてや教科書もなかった。各学校の特殊学級担任は1人で奮闘し、迷い、苦悩する現実がそこにはあった。だが、彼はとにかく無我夢中で考え、実践した。すると、徐々に授業中に好き勝手なことをしていた子も真面目に取り組むようになった。
 今でも忘れられない1人の生徒がいる。小名浜第一中学校時代、「第2の山下清」とも呼ばれたマジック画の吉田光延君の担任だった時のこと。呼んでも「ハイ」の返事もしない自閉症の生徒だった。ある時、1枚の絵を見て「おや?この絵、遠近法がちゃんとできている、もしや…」と彼の絵の才能を発見。毎日、好きな絵を描くことに専念させた。すると、みるみるうちに才能が開花。地元はもちろん、新宿の京王百貨店でも個展を開き、どこでも超満員。14歳の吉田君はいつしか「天才画家」と呼ばれ全国版の新聞・テレビにも取り上げられるようになった。
 特殊教育に情熱を注ぎ様々な成果をあげる一方で、時には批判的な見方をされ、「宣伝屋」と称されることもあった。それでも「特殊教育が世の中で注目されるならば…」という思いで、教育改革に熱心に取り組んだ。
↑小名浜第一中学校で特殊教育をしていた頃の桑原さん。隣は「第2の山下清」と呼ばれた生徒の吉田光延さん
伸びる芽を見逃さずに
限りない可能性の追求を
彼には教師になった頃から、「いつかは自分の学園を作りたい」という夢があった。また、長年の特殊教育を通して「もっと小さいうちから教育すれば、可能性は広がるだろう」と感じていた。そして、平成7年に念願叶い、若葉台保育園を創設。特殊教育の経験を生かし、今でも多彩な教育に力を入れている。
 また、『科学する心を育む』を主題とした教育論文「ソニー教育財団の幼児教育支援プログラム」に今年で3年連続入賞を果たした。職員が一丸となり、子どもたちの一瞬の心の叫びや活動を見逃さずにキャッチした集大成なのだ。
 「特殊教育のなかにこそ教育の原点があり、教師の情熱こそが子どもたちの心に届き意欲を起こさせる。情熱はあらゆる不可能を可能にする」。子ども一人ひとりと向き合いながら、桑原さんはそう実感しているという。
 取材時、保育園に発達障がいを持つ児童がいた。先生と生徒はマンツーマン体制。「たくさん受け入れたくても現実はなかなか厳しいです」と桑原さんは残念そうに語る。現場ではまだまだ特別支援の手を必要としているのだ。桑原さんは教育の限りない可能性に、夢を持ってチャレンジする先生が増えることを強く願っている。また、それを支える社会になって欲しいと。
↑元気いっぱいに学ぶ園児達。若葉台保育園では自然教室や和太鼓教室、その他にも英語、音楽、料理、絵画教室などを実践している

| お店の推薦・クチコミ投稿 | プライバシーポリシー | 広告掲載について | お問い合せ |
(C)image Co.,Ltd. All Rights Reserved.
有限会社いまぁじゅ