草花から教えてもらったことを
少しでも多くの人に伝えたい |
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■ひみつの花園は少女時代からの憧れ
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海岸へと続く道の途中の小さなハーブ園。初夏になればカモミールやラベンダーなどが一面に咲き乱れ、訪れる人の目を楽しませてくれる。エプロンと帽子がトレードマークの宮内眞佐子さんが今日も一人で畑の手入れをしていた。
吾妻山のふもと。野山に囲まれてのびのびと育った少女は、読書と花が大好きだった。文学少女は、ある日「ひみつの花園」という一冊の本に出会った。つむじまがりの孤独な女の子が、荒れた庭園を魔法のように蘇らせていくストーリー。いつか自分もたくさんの花を咲かせてみたいと夢を膨らませたが、少女の夢は開花することなく大人になった。
短大を卒業後、24歳の時に結婚。出産、子育て、家事と忙しい日々が流れた。夫・幸治さんの仕事柄県内を転々とする生活をし、昭和53年、幸治さんの故郷であるいわき市へ転居。親の介護もあり、自分の事は二の次の生活。その後、平成6年、海岸近くの現在の住まいを第3の故郷と決めた。その当時は、人間関係のトラブルなどで精神的にも辛い日々を送り、自暴自棄に陥っていたという。
そんなある日、近所を歩いていると、ゴミが散乱し雑草で荒れ放題の畑が目に入った。どうしても放っておけなくなり、一人でゴミ拾いを始めた。少しずつキレイになっていくその光景を見て、昔読んだ本のように、いつしかここを「ひみつの花園」にできないだろうかという想いが膨らんだ。すぐにその土地を借り、本で調べながら土作りから始め、手探りの畑づくりが始まった。
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■ハーブとの触れ合いから新たな一歩へ
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人と会うことも億劫で内側を向いていた心が、花と触れ合うことで癒されていった。3年後、畑には100種類以上のハーブが溢れ、彼女自身も元気を取り戻した。そして、多くの人にハーブの魅力を伝えたいと〈いわきハーブの会〉を設立。畑には、「はあぶ&花の里」と名づけ、オープンガーデンとして開放した。「植物と関わったおかげで、人とのコミュニケーションもとれるようになったんですよ」。彼女の周りにはたくさんの人が集まるようになった。
もともと家庭科の教員免許を持っていたこともあり、ハーブを活用した園芸教室や料理教室、クラフト制作など、さまざまな分野から生活全般に役立つ智恵を伝授した。また、地産地消を考えてもらいたいとのことから、畑の前で毎週土曜日に朝市も開催している。
そんな中で、現代の生活に疑問を感じるようになった。「イチゴの旬は、本来なら6月頃でしょ。昔は待ちこがれたものだったけど、今では一年中手に入るからね」。季節感が感じられなくなった食生活、栄養バランスの偏ったファーストフード食などが当たり前のようになってしまった今に、自分がするべき事を見いだした。
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↑毎朝各2時間かけて水やりをするという程、花の手入れは丹念に行っている。ハーブガーデンは自由に誰でも花を楽しむことができる |
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↑「どこに行くのもいつも一緒」というお相手は、愛犬のプリンセスちゃん。毎日宮内さんと畑仕事に来ている |
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■自然を大切にすることは 自分を大切にすること |
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ハーブを通しての食育、素材の本当の味を伝えられないだろうか。環境を見直すキッカケ作りができないだろうか。思案の末、栄養の面や調理法などをより具体的に教えることができるよう、調理師免許を取得した。ハーブを活用する幅を広げたいと美容に関わる資格も取得。そして、平成18年、環境省による環境カウンセラーの認定を取得した。現在、環境アドバイザーとして公民館やさまざまな施設に出向き、自然保護や環境保全の面からもアドバイスを行っている。「身体が健康だからこそできる事がたくさんあるの。それにはまず、口に入れるものから見つめ直すこと。農薬をたくさん使って虫が寄りつかなくなったキュウリより、形が悪くても虫が御飯にしているものの方が安全なのよ」。わかっていても、改めて気づかせてくれるような彼女の言葉には説得力がある。
畑との出会いから10年以上が経ち、これからは自分自身が楽しめるガーデニングをしていきたいと話してくれた。「長生きできることは、それだけ勉強できる時間が増えること」。前向きな姿勢が彼女の魅力を作り出している。
幼い頃に抱いた淡い夢は、本の中の世界から現実のものへと叶えられた。初夏を迎え、ひみつの花園は今年も色とりどりの草花で溢れるだろう。彼女の忙しい季節が始まろうとしている。 |
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↑ハーブの効能を交えた料理教室は好評。宮内さんの楽しいトークも人気 |
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