| vol.234 佐藤江利子さん |
 |
| PROFILE |
さとうえりこ
昭和48年、いわき市生まれ。磐城女子高校（現桜ヶ丘高校）卒業後、東京にある森岡和裁技術学院に入学。在学中に〈社団法人日本和裁士会〉職業和裁技能検定一級と、着付士一級の免許を取得。いわきにUターンし、和裁士として独立し〈馳夫（はせお）工房〉を立ち上げる。現在は和裁の他、着付け、ちりめん細工やクラフト、絵本作りなど活動の幅を広げている。 |
|
|
| 日本人として誇れる、和裁士の仕事を通して |
 |
|
| ■一針を大切にていねいな仕立てを |
|
平上平窪、山々に囲まれた自宅にある作業部屋には着物箪笥と場板が一つ。ノーメイクにジーンズで黙々と場板に向かう佐藤さんの姿があった。衣服の染料が着物に付かないように、色落ちしたジーンズ。もちろん時計やアクセサリーを外し、小さな傷さえも許されない、着物への配慮のためだ。「男仕立て」の和裁士は「くけ台」の代わりに、足の親指と人差し指で生地を押さえるために作業中は「あぐら」が基本。真冬でも裸足で作業を行う。「最初は慣れませんでした。でも今は、何をするにもあぐらが楽になってしまいました」。
和裁士の仕事は、反物の裁断から始まり、一針一針縫い上げ、着物を仕立てていく。集中力が必要なため和裁の作業をするのは、朝から夕方ぐらいまで。一日の作業は集中力が持続する6〜7時間と決め、3日から4日で1枚の着物を仕立てる。和裁専用の針が1日で曲がってしまうほど、何千回も運針を行う。縫い目は機械で縫ったように美しく、ていねいな仕立てに彼女の元には、市内の呉服店から次々と反物が届く。
|
 |
佐藤さんの作業部屋。場板に向かい、黙々と反物を縫い上げる作業が続く。生地を起用に足の指で押さえる。慣れない頃は、足がつってしまったそう
|
|
|
|
| ■慣れ親しんだ着物を仕立てる和裁士の世界へ |
|
趣味で観世流能楽の謡と仕舞をしていた両親は、着物を身につけるのが日常だった。そのため幼い頃から着物は「特別な日に着るもの」ではなかった。
高校3年生の時、同級生の多くは大学進学という目標が決まっていた。しかし、自分は「手に職を付け一生続られる仕事がしたい」と思っていた矢先「和裁士」という職業を知る。和裁士として有名な森岡平八郎氏が校長を務める「森岡和裁技術学院」へ、両親の後押しもあり入学を決めた。5年間、和裁を基礎から学んだ。授業はお客からの依頼品を請け負い、実績を積む内容。しかし最初は、真っ直ぐに縫うことすら出来ず、裏方の作業が続いた。やがてヒモや肌襦袢などを縫えるようになり、徐々に着物を縫えるようになっていった。入学した時には、6人だった同級生も4人に減り、職業和裁技能検定一級を取得したのは、たった一人彼女だけだった。それほど狭く厳しい世界なのだ。5年間、和裁中心の生活を送り、一級を取得したことは、独立する自信にも繋がっていった。 |
|
|
|
| ■和裁から取得した技術を多方面に生かしていきたい |
|
卒業後、地元デパートからの仕立てを請け「和裁士」としての生活がスタート。その後、呉服店からの依頼も増え和裁士として軌道に乗る。そして、「演劇の衣装を作って欲しい」「美術展で童話に出てくるオオカミの人形を展示したい」など、本職以外にも製作の話が舞い込むようになった。小さい頃から工作や手芸が好きだった彼女は、作ったことがないジャンルでも「楽しそう！」と思い、新しいことにチャレンジしている。「いいな！と思ったものは、とにかく自分の手で作ってみたくなるんです」。その好奇心は膨らむばかりで、ちりめん細工やクラフト、絵本作りにまで広がった。彼女は専門書を読んで、ほとんど独学で覚えてしまう。その腕前やセンスが買われ、カルチャースクールの先生や雑誌に連載をもつほどになった。絵本作りは〈馳夫工房〉の由来ともなった愛犬・馳夫の記録本からスタートし、飛び出す絵本などを次々と製作。絵本の題材や話の内容も評価され「第一回ふくしま絵本賞」の大賞作品に選ばれた『ししまいのなつ』、第一回「やさしい心を育む絵本」の最優秀作品賞を受賞した『めんどりコッコさん』の2冊は製本され、絵本作家としても知られるようになった。
活動の幅が広がり、多忙な日々を送っているが、基本は「和裁士」としての生活。しかし、その和裁士の仕事が彼女に新しい風を送り込んでいる。「いい出会いに恵まれて、色んな物作りにチャレンジできるのは、和裁の繊細な技法が身に付いているからこそ」その言葉に、今後も彼女が活動の場を広げ続けることだろうと思った。
和裁士は仕立屋として、直接お客さんに会うことが少ない裏方の仕事。しかし、寸法を頼りに、お客さん一人ひとりを想いながら着物を仕立てる。彼女が運ぶ一針に「和裁士」の誇りをのせて。 |
 |
| ↑和裁の道具 |
|
|
